右足の幅がFでした。

サブ6ランナーかく語りき

比叡山International Trail Run 2016 完走の記録

 

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 §.1 念願のエントリー

昨年、第一回が開催された「比叡山インターナショナルトレイルラン」。当時、この過酷なレースに出場したいなと思っていたのですが、残念ながら参加資格を満たしておらず断念しました。

今思うと我ながら無茶なことをしようとしていたんだなと思わざるを得ません。距離はともかく、累積標高なんていまいちピンと来なかったですから。あれから一年、この大会へ出るため初のフルマラソンも完走し、参加資格を得て満を持しての出場でした。

京都在住の僕にとって比叡山は身近な山で、京都一周トレイルは何度も走ってるコース。今回のコースも半分以上はすでに走ったことがあって地の利をいかせることもあり、また昨年参加された方のブログを読んで自分なりに何となくイメージを持っていました。結果的にはそれが良かったり悪かったりしたのですが…。

 

 

§.2 スタートから第二エイドまで

当日は友人の車に乗せてもらいスタート地点の根本中堂へ7:00頃に到着。気温もそれほど高くなく、走るには絶好のコンディション。体調も悪くないし開会式まではリラックスして過ごすことができました。僕のゼッケンは2000番台だったので、第二組9:20のスタート、ゴール20:20の制限時間は11時間。事前に作成した予定表をチラチラ見ながら、とりあえずは第二エイド、スタートと同じ根本中堂までを時間内に通過できるよう考えていました。

午前9:00、第一組がスタートしました。まずは友人のT氏とI氏がスタート。T氏はワラーチでの参加。僕のワラーチ先輩であり、ラン先輩でもある同級生。I氏は本格的なトレイルが初めてとのことだけど、ウルトラマラソンを完走する強脚の持ち主。笑顔でゲートを走り抜けている二人を見送り、自分もスタートラインへ。隣にはT氏の友人、K氏が。この方もルナサンダルで参加のツワモノ。トレイルの大会は初めてと言いつつ9時間台でゴール。やはりロードで結果を出している人は違います。

 

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▲スタート1分前!いよいよかと思うとちょっと緊張。

 

午前9:20、我々第二組のスタート。直後の上りではランナーも多かったこともあり軽い渋滞が発生、ジリジリと時間が経過するように感じました。ある程度予想はしていたものの、ここで焦りを感じてしまい、その後の下りはそこそこ勢い任せに走りました。「前半は抑えて」とは言うけれど自分は力を抑えて後々何とかできるレベルでもないし…そんなことを考えながら最初の谷底まで飛ばしました。

予定では7キロ地点、最初の谷底へ到着するのが1時間後の10:20。何とか時間通りに通過したものの、このあたりから下りで飛ばした影響がジワジワ出てきました。上りがキツい。普段でもキツいけど、脚が重い。ハイドレーションに2リットル、ジェル、その他装備を含めると結構な重さを背負ってるわけで、足を踏み出すたびにふくらはぎに負荷が掛かります。

ついに9キロ地点で右足がこむら返りを起こしトレイル脇に倒れこみました。ちょうど後ろを走っていたK氏に「先行ってください!」と情けない声で伝え、しばらく上り過ぎるランナーを横目にマッサージをしていました。実はこのとき早くもリタイヤの文字が頭をかすめていて、振り返ると我ながら根性ないなと思います。

そんな時、中学のクラブの顧問が「脚がつるのは怪我じゃない!練習に戻れ!」と言っていたことを思い出しました。確かに、怪我でも病気でもない。ちょっと痛いだけで走ることはできる。力を入れるたびにふくらはぎがピクピクするけど、塩分を補給して進みます。

 

11:00、第一エイドのロテルド比叡に到着しました。この時点で予定より15分遅れ。トイレを済ませ、フルーツをほおばり、顔を洗って足早にエイドを出発しました。エイドでスタッフの方と一声交わすだけで何か気力が湧いてくるのは不思議です。応援してもらえるって本当に有難い!さっきまでのリタイヤ気分はすっかりなくなっていました。

 

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▲第一エイド。フルーツが美味しかった!

 

ここからは少し上って長めの下り。15分の遅れを取り戻すため、前のランナーに食らいつくつもりで走りました。2つ目の谷底には12:20に到着、予定より10分遅れでしたが5分の挽回。しかし、ここから第二エイドまでは先日試走した時もくじけそうになったかなりの急登、なんとか遅れた10分をキープしながら登ります。

 

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▲二つ目の谷底から比叡山高校のグランドに向けて

 

ここで次はまさかの左ふくらはぎがこむら返り。たまらずへたり込みます。油断すると右足もつりそう!シングルトラックの狭い上りで起こったので、後ろのランナーのみなさんにもご迷惑をお掛けしました。男性ランナーの方が過ぎ去りざま、「よかったらどうぞ」と、塩タブレットを差し出してくれました。親切な方、この場を借りてお礼言わせてください。どうもありがとう!

ここの数キロは本当に長かった…。エイドで養った英気はすっかりなくなりまたもリタイヤの4文字が…。なかなか進まない坂を何とか上りきり、ケーブル延暦寺駅に到着。スタッフの人にどうやってリタイヤを伝えよう、なんて前向きにネガティブなことを思ったりもしてました。それでも第二エイドは目前。「とりあえずエイドまで行こう、行ってから決めよう」とだましだまし進みました。ホントにこのレース中、何度自分をだましたことか(笑)

 

§.3 第二エイドから35キロまで

午後13:25、第二エイドに到着。予定していた時間より25分ほど遅れていたけど、経過時間を見れば4時間と5分。まだいけるんじゃないかと、さっきのリタイヤ気分はなかったことになりました。ここでハイドレーションに水を補給し、どうしても食べたかったお蕎麦を頂き(思っていた通り美味しかった!)、少し元気になって出発。エイドを出る時にお饅頭を配ってる方がいました。「よかったらどうぞ!」って言われたのでひとつバッグにしのばせましたが、まさかこの饅頭が最後の気力を与えてくれるなんてこの時は思いもせず…。

 

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▲第二エイド。このあとは写真をとるどころじゃなかった…

 

延暦寺を後にし、青龍寺からの下りは快調に飛ばしました。かっ飛ばすという表現の方が正しいかも。“下りで稼ぐ”という一種の強迫観念のようなものを感じながら、前を走るランナーを数人抜いていきました。しかしここで調子に乗ったツケがきます。左膝に違和感を感じ、それは下るたびに痛みに変わり、ちょっとヤバいかなと思いました。というのも膝が痛くて下りでスピードが出なければ遅れた時間は取り戻せないと思ったからです。

3つ目の谷底、地蔵前まで我慢しそこからの上りに備えてしばらく左膝をマッサージしました。正直、どこから来てる痛みでどうすれば緩和されるのか何てわからない、とにかく痛みがなくなるよう祈りながら膝の周りをほぐします。その間にもさっき抜いたランナーが上りに差し掛かるので、どうしても焦らずにはおれません。ここで14:27、挽回どころかさらに遅れてしまいました。

ここからが本大会の大きな山場、横高山へ向かう長い長い上り。走る前のイメージではここさえ抜ければ何とかなると思ってました。すでに何ともならない状態のような気もしてましたが、「この道も一度走ったことがある道。大丈夫!」と自分に言い聞かせて一歩一歩足を踏み出します。焦りはしますが、前の選手に追いつけなくても、後ろの選手に追い抜かれても、オーバーペースにならないよう気持ちをしっかり持って上り続けました。

ここで半分の25キロを迎えます。この時、前を歩く集団の一人が「半分来たけど5時間半掛かってる!」と言うのが聞こえたのです。そこでハッとしました。残り25キロをこれまでと同じペースで走らないとダメなのかと。「これまでのペースとここからのペースが一緒になるわけないやん!」と思うと同時に「正直完走は無理かな」という感覚がありました。そしていつものリタイヤ症候群。

長い長い上り、何か悲しい場所へ向かうような気持ちで歩を進めます。上りこそ楽しもう!なんてことをよく耳にしますが、僕はそこまでポジティブになれないので、どうしても上りが苦手です。しんどいしんどいと呪文のように心の中で繰り返します。だから長く感じるんですかね。この上りはホントに辛かった…。

 

給水所に到着したのが15:16。当初予定していた14:22からほぼ1時間の遅れが出ていました。次の滝寺までは7キロ。仰木峠を越えて大尾山を上るというコース。このあたりも普段走り慣れている場所なので、どれくらいのものか分かります。逆に分からなければ勢いで行けるのですが、この時間、この疲れ、どうしても躊躇してしまいました。

その時、僕の前を歩いていたランナーが駆け上りました。さっき5時間半掛かってる、といったランナーです。その人があきらめずに行くのならこちらもあきらめるわけにはいきません。だって25キロ地点という同じ場所に同じ時間にいたのですから。ゼリーを3つ口に入れ、気合いを入れて急登に臨みました。

横高山、水井山を越えればしばらく快適な下りがあるのを知っています。上りはキツいけどそれほど長くないし、一時我慢すれば楽な時が来ると信じて上ります。しかしながらその希望もすぐに打ち砕かれました。さっきの左膝がまたしても悲鳴を上げたのです。楽なはずの下りがまさかの痛みとの戦い。スピードも出ず、数人に抜かされました。もはや抜く抜かれたは問題ではなく、痛い痛くないの方が重要。むしろ上りの方が痛くないから早く上りたいとすら思ってました。

 

コースの北端まで差し掛かり、こんな時なのに晴れてたらすごく良い景色だなぁなんて思いながら、足元の悪いコースを慎重に下り、なんとか滝寺まで到着しました。給水所ではコーラとボランティアの方が自画自賛するお漬物を頂いたのですが、自画自賛だけあって汗をかいた体に塩とキュウリが本当に美味しかった!手作りのモノを出して頂けると、おもてなし感というか応援感がより一層伝わってきます。本当にありがとうございます!

さて、この時初めて19:00関門のことを意識しました。制限時間内にゴールするには横川を関門時間までに通過しないと先に進めない。気持ちにも時間にも余裕がなく、休憩もそこそこにコースへ戻りましたが、ここで致命的なミス!第二組の僕は勝手に関門時間は20分遅れの19:20と勘違いしてました。

滝寺からの林道は何かに押されるように進みました。そして35キロの表示。時計を見ると17:00。第四エイドの横川まではあと10キロ、関門時間の19:00まではちょうど2時間。つまりキロ12分ペースで進めば間に合う計算になります。自分の関門が19:20としても(本当は19:00なのですが)、ゴールまでの5キロを考えると19:00目標に走ろうと、具体的なプランが出来上がりました。

 

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▲事前に考えていたペース配分表

 

 

§.4 仰木エイドからゴールまで

37キロ地点の仰木エイドに到着した頃にはランナーもまばらで、ボランティアの方も「そろそろエイドをたたもうと思うんやけど…」と本部へ連絡しているところでした。あきらめている選手もいたりして、エイド全体があたかも運動会の閉会式前のような雰囲気を漂わせていました。長居できない僕は特製ジュースを2杯だけもらって、すぐにエイドを後にしました。

ここからは長い下り!ここぞとばかりに足を回しました。重力に逆らわず半ば落ちるように走ります。正確にはもはや力も入らないので身を任せるように進んでいただけでしたが。このあたりのコース、実は別の大会で走った経験があります。だからどのあたりまで下りが続いているのか感覚としてわかったので、気持ち的にも攻めることができたと思います。

キロ7~8分で来たでしょうか、ちょっと貯金ができたと思いました。ライトチェックを済ませ、次の上りを耐えたら横川エイド、そしてゴール!長い下りに力を出し切りましたが、これは行けるという手応えがありました。そしてロードへ出たところにスタッフの方がいました。「横川まであとどれくらいですか?」と確認すると「1.2キロです」とのこと。時間はまだまだ十分。

その先にも誘導しているスタッフの方がいたのですが、ここで衝撃の事実。なんと第二組も関門時間が19:00とのこと!え?は?すぐにはピンと来ませんでしたが、「早くいかないとヤバいです」という言葉を聞いた瞬間、「あ~、ダメだったねぇ。おつかれさま!」という友人の姿、「また今度頑張ればいいじゃない」という家族の笑顔、それらが逆走馬燈のように脳裏を駆け抜けました。

ついさっきまでリタイアしようかどうか迷っていたのに、さすがにここまできて制限アウトでは納得いきません。続く上りをできるだけ速く!速く!足に力が入らないので、手すりをたぐり寄せるように階段を上りました。気持ちとは裏腹にスピードが上がらず後ろの選手に抜かれました。その背中に食らいつくよう追いかけて、何とか上りきった先にいたスッタフの方が言いました。「あと1キロ弱です!」

さっき1.2キロで今、1キロ弱!?それだけしか進んでないの?残り8分、平坦1キロなら余裕のタイムだけど、気持ち的にも折れかけていて、もういっそあきらめた方が楽だしなと真剣に思いました。19:00関門のルールをちゃんと把握してなかった自分が悪いし、何度もあきらめようと思ったわりにここまでこれたしな。なんて思いながらも、歩くわけにはいかない、そう思って走り続けました。

「あと4分!」誘導スタッフの方が叫びます。このあたりから無我夢中で走っていたのは覚えてますが、どのくらいの速さで走っていたのか全く覚えてません。「ここからトレイルに入ります!」「また上らせるのか!」そう思ったけど後ろに数人の気配があるから自分が流れを止めるわけにもいかないし段差を四つん這いになりながら駆け上がり、とにかく前へ前へ進みました。

下りに差し掛かるポイントであと2分!もうすぐ下にエイドのテントが見える!後ろから「あと2分だって!」と叫び声、狭いコースを4~5人が一斉に駆け下ります。エイドスタッフの懸命な応援を受け、トレイル抜けて文字通り転がるように滑り込みました。誰に当たったのか、三角コーンが倒れてました。

値千金の関門突破。「あと30秒…」誰かがつぶやきました。振り返ると数人がエイドの中で僕らを見送るようにたたずんでいました。たった数秒の差、明暗が分かれた瞬間でした。

 

ここから最後の5キロ、たった5キロ、ゴールは目前、ここまで来たら絶対ゴール!と言い聞かせながら走り続けます。ちょうど最後尾にいた僕にスイーパーさんがついてくれました。「さあ、ゴールするわよ!」となかなかの熱いお言葉。「うぃす!」なんて威勢いい返事をしましたが、実はこの時、ハイドレーションの水も持参したジェルも底を付き、滝寺からしっかり補給できておらず、すでに足はフラフラ、頭もクラクラ、身体に力が入っていませんでした。

あたりはどんどん暗くなり、足元もおぼつかない状態。もはやヘッドランプを装着する時間さえ惜しいので、ここを下りきって最後の上りの前につけようと考え、とにかく今を走ることに集中しました。スイーパーさんが「大丈夫、足はまだしっかりしている!」と励ましてくれます。そう言ってくれる人がいるだけでペースも上がり、前を走るランナーにも少しずつ追いついてきました。

黙々と下り続け、やっと最後の上りに差し掛かった時にはすでに山は真っ暗。いざライトをつけようと思ったらなぜかつかない!電池のフタがちゃんとしまっていなかっただけだったのですが、その時は疲れすぎていて、軽くパニックになって電池を温めたりしてました(笑)

そうこうしてる間にまたも最後尾に。残り2キロ、噂に聞いた最後の上り。幸か不幸かあたりが真っ暗なので先がわからずとにかく足元の段差を上ることに集中しました。「イチ、ニ、サン、シ、イチ、ニ、サン、シ」とスイーパーさんが掛け声をかけてくれます。この上り区間、ほとんどずっと声を掛けてくれていました。

上っている最中、僕はほとんど無言でした。「イチ、ニ、サン、シ」のペースに足がついていかず、身体をコントロールするのが精一杯だったからです。「このあたりはお地蔵さんがあって夜は怖いよね~」といろいろ話を持ち掛けてくださったのですが、その時の僕の感情で、しんどいを上回るものはなかったのです。スイーパーのみなさん、ホントに余裕なくてすみませんでした。

結構な時間、上った気がしました。もうすぐだ、もうすぐだを心の支柱に上ってきましたが、まさかの「あと1キロ!」という言葉。身体の限界を感じました。「ちょっと待って、少し休憩したい…」その言葉が喉元まで来ていました。しかし変わりに僕の口から出た言葉は「後ろのポケットにある饅頭取ってください」でした。第二エイドを出発する前、ひとつだけもらっていたあの饅頭です。

命綱とも言える饅頭を食べ、お茶を一口もらって少し元気が出てきました。「最終ランナー、あと500mです」本部へのその報告も僕に元気をくれました。あと少し、あと少し。

 

前方にチラリと明かりが見えました。夜ですが、真っ暗ですが、ここは間違いなくゲートに続く道でした。この先にゴールがある!最後の数十メートル、ここだけはほとんど記憶に残ってません。ただ、坂の下までT氏が迎えに来てくれたこと、それだけ覚えています。そして20:10、最初に立てた予定より10分遅れでしたが、たくさんの応援を受け、あたたかい出迎えを受けゴールゲートをくぐりました。それは、これまでに経験したことのない本当に贅沢なゴールでした。

ゴールの感動と至近距離の鏑木さんにテンションが上がってしまい、インタビューにうまく答えられた自信はありませんが(笑)、あらためてサポートして下さったスイーパーのみなさん、エイドのボランティアの方、スタッフの方、一緒に走ったランナーの皆さん、そして最後までゴールを待っていてくれていた友人。最も遅いタイムでのゴールだったにも関わらず、たくさんのご褒美を頂きました。本当に感謝です。ありがとうございました!

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▲ゴール!ゼッケンもめくれてボロボロ

 

己の限界に挑んだ比叡山インターナショナルトレイルラン、僕の挑戦はたくさんの人に支えられながら有終の美を飾ることができました。

来年出場される方の一助になれば。。。