右足の幅がFでした。

サブ6ランナーかく語りき

【神と仏の長距離走】空也の滝 〜 月輪寺 〜 愛宕神社

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紅葉の時期の京都が混雑するのはいつものことなのだけど、ここ数年は外国人観光客が増えたこともあって輪を掛けて人が多い。

とくに嵯峨・嵐山の地域は紅葉の名所ということもあって、普段は閑散としているJR嵯峨野線もこの時ばかりは朝から満員電車だ。

何を思ったか、わざわざそんな時期に観光地を走り抜けて、目指すは愛宕山中腹にある「空也の滝」。

実のところ嵐山付近は有名なお寺や神社が結構多い。神社仏閣好きは一日楽しめる地域なのだ。

まずは走りながら通った場所を紹介していく。

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▲野々宮神社。正面の黒木鳥居は樹皮がついたまま鳥居にする日本最古の形式。

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▲ご存じ、世界遺産天竜寺。駐車代が1000円…だと…!?

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▲日本で唯一と言われる、髪の毛の神様を祀った御髪神社。念入りに拝む。

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▲こういう絵馬を書ける人のセンスがうらやましい。

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▲小倉山二尊院百人一首でお馴染みの小倉山のこと。

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▲マニアの間ではダントツの人気を誇る祇王寺。お庭がきれい。

いずれも時間を掛けてゆっくり見たいところ。これら以外にも神社仏閣はいくつかあるもんだから拝観料貧乏になっちまう。

とまあ、紹介しといてなんだけど、とにかく今回は全てスルーだ。

そんな中、嵐山界隈では特別異彩を放つ「水清大神」。(正確な名称はわからない)

以前、前を通った時は鳥居がちゃんとあったのだけれど、どうやら台風で壊れてしまったらしい。

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▲水清大神と呼ばれる朽ちた神社。名状し難い存在感。

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▲奥の鳥居の向こうにお稲荷さん。僕はへっぽこなので入る勇気がなかった。

以前読んだ本に「神社にも良い神社と悪い神社がある」と書いていたことを思い出して、もしや悪い方の神社かも…と思ってしまうほどのおどろおどろしさ。

境内に踏み込みことはしなかったけど、何か負のオーラを浴びた気がしてちょっとテンション下がってしまった。

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▲石畳の奥嵯峨野を進む。このあたりは豆腐屋さんが有名。

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▲こういうの、きらいじゃない。

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愛宕神社一之鳥居。ただいま工事中。ここを右に行く。

この辺りは化野(あだしの)と呼ばれ、昔は埋葬地だった場所だ。

「野」とつくのはそういう意味で、京都の三大風葬地として「東の鳥辺野」「北の蓮台野」「西の化野」が挙げれられる。

ちなみに鳥辺野にある六波羅蜜寺には口から「南無阿弥陀仏」を吐き出す(?)有名な空也像が展示されている。

そう、今回の目的地「空也の滝」はまさにその空也上人が修行した場所なのだ。

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▲車道にでた。左手には千二百体の石仏が安置された愛宕念仏寺がある。

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▲出た!高確率確変心霊スポット「清滝トンネル」!ここを通るのか…。

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▲向こうが曲がっているため出口が見えず、異空間のような雰囲気。

トンネルを通らず山の上を走る車道を進む方法もあったけど、近道のため突っ切ることに。

たかがトンネル…そうは思えぬ空間。夜中に通る勇気、僕にはない。

さっきの負のオーラと言い、ここでも何かイヤなものがまとわりついた気分になって、さらにテンションが下がってしまう。

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▲トンネルを出て右手へ。

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▲橋を渡る。

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▲渡り切った先の分岐に月輪寺(つきのわでら)の標識が。右へ。

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▲ちなみに左にいくと愛宕神社二之鳥居がある。ここが表参道の入口。

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▲とりあえずルートを右にとり月輪寺を目指す。

このあたりは京都一周トレイル西山コース、北山西部コースの一部でもある。

以前、京都グランドトラバース65を走った際、紫色の上下を着たちょっとエロい感じのおじさんランナーがいて、その人のハイドレーションのホースがびろーんって伸びてて走るたびにぶるんぶるんして気になっていたあたりだ。

足下に川の流れを見ながら緩やかに登っていくと分岐に差し掛かる。

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▲ここまでは東海自然道で京都トレイルでもある。分岐を左へ。

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▲道はやや荒れてるものの舗装されているので走りやすい。

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▲まだ真っ直ぐ。今回の目的地「空也の滝」の表示がでた。

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▲実は登り口まで車で来ることができる。ただ、ここから先がキツいのだけど…。

スタートから約6キロ。登り口に到着。そこそこメジャーなルートなのか、京都トレイルの分岐からここまで二人の登山者に会った。

ここで道が分かれる。滝へ行くコースと月輪寺へ行くコースだ。

月輪寺空也ゆかりのお寺なので後で行くとして、まずは目的の滝へ向かう。
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▲小川沿いの階段の先に空也の滝がある。

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▲ファンキーなたぬきがお出迎え。

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▲しばらく階段が続く。

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▲300mほど登ったところに鳥居を発見。さらに奥へ進む。

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▲補修中の鳥居があって、その先には…

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▲来ました!空也の滝!

 

空也の滝

ひとつめの鳥居からさらに100m、階段を数段登り見上げると突如現れる空也の滝。

木々の間から逆光になって流れ落ちる様子は激しすぎず、かと言って弱々しくもない。

圧倒的にそびえ立つ黒い岩肌を、放射状に広がる白滝が飛沫を上げて霧散する。

その水を吸って伸び続けるいきいきとした苔の緑と、石仏石碑の物語る長い歴史の跡がコントラストになって、この場所を霊瀑たらしめている。

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▲最大落差15メートル、お見事な滝っぷり。

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▲所々に何なのこの世紀末感。

若干、さびれた感はあるのだけど、落ち葉は綺麗に掃除されているし、お花も新しいものが供えられている。

きっと誰かがお手入れしてるんだろうな。

しかしさすがに12月も半ばなので、わざわざ滝を見に来る人もいないのだろう、あたりに人の気配はない。

ある有名なスピリチュアルな人に言わせると、ここは修験の場なので、神的な何かは感じないそうだ。
だけどこの厳かな雰囲気は僕でもわかる。ふざけていい場所じゃあない。

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▲滝の右手には不動明王像。

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▲左手には役小角(えんのおづぬ)。飛鳥時代の呪術師で、従えてるのは前鬼と後鬼。

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▲滝に近づくとなかなかの水しぶきが。マイナスイオン、はんぱない。

今回、ここを目的にしたのは、フリーの修行場だったということ。

そう、誰でも滝行が可能なのだ。

空也の滝は信者さんがちゃんと管理をされている場所なので、はしゃいだり遊び半分で滝に入るのはNGです。

当初は、あわよくばうたれてみるかという程度の気持ちだったのだけれど、行きに朽ちた神社を見たこと、心霊トンネルを通ったことなどが心の中に引っ掛かっており、これはもう気分の問題なのだけど、ここで清めることはできないものかと。

そう、今なら誰もいない。たぶん誰もこない。

チャンスや!

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▲というわけで、滝にうたれて不浄なものを流しつくす。

12月の山水はただただ冷たい。でも凍てつくほどの寒さでもない。禊のつもりで滝行を敢行する。

当然、ランパンはびしょ濡れだ。

しかし、うたれた後はちょっと気持ちも晴れた感じで(気分の問題)、ちょっと身体が軽くなった感じ(気分の問題)。

そんな中、清々しくタオルで身体を拭いていると、後ろに人の気配。振り向くとまさかの登山者が立っている!
向こうにしても「滝に着いた♪」と思っていたら、突然上裸のおっさんが目に飛び込んできたわけだからびっくりもするだろう。

ごめんね。でもお互いおっさんだからセーフだよね。

見てはいけない立場、見られてはいけない立場の二人が目を合わせたもんだから、気の利いた一言が言えるわけもない。

そそくさとシャツを着て荷物をまとめたら、「どうも」と定型の挨拶をして足早にその場を後にする。

登山者のおじさんはあまり関わりたくないのか、岩の苔なんかをスマホで撮影しながら僕がいなくなるのを待っていた。

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▲さて、駐車場まで戻ってきました。次は月輪寺へ向かう。

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▲思っていたより登らすなぁ。

空也の滝を後にし、次は月輪寺を目指す。

月輪寺まではそう遠くない険しくない、と勝手に思い込んでいたんだけど、これが意外となかなか手応えのある山道だった。

調子よく登っていたのも最初だけ、徐々に歩みが遅くなっていく。

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▲中間地点に到着。まだ半分もあるのか!という思い。

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▲まだまだ道は続く。久々に左ふくらはぎがつりそう…!

滝行で空也パワーを身にまとったせいか、身体がスース―する。

と思ったけど、ただ濡れたランパンに冷たい風があたってるだけだった。寒い。

でも日差しが強くなって身体を温めてくれる。じわじわ汗が出る。

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▲大師とは法然さん、聖人とは親鸞さんのこと。でもオレ、真言宗

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▲かなりアグレッシブな感じになってきた。

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▲住職が煽ってくる。

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▲あと5分!もうちょっとなのはわかるけど、時間より距離で教えて欲しい!

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▲かなり登ってきた。いい眺め。

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月輪寺、到着!親鸞さんがお出迎え。

狭い山道を抜けるとついに月輪寺が見えてくる。

はっきり言って滝行よりこっちに登る方が修行になるんちゃうか。

いつのまにかパンツもすっかり乾いていた。

 

月輪寺

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▲本殿はかなり年期が入っている。

ここ月輪寺は781年に開かれた天台宗のお寺で、先の空也上人もここにこもっていたそう。

滝まで往復修行に行ってたと思ったら結構大変だな。

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▲ご本尊は阿弥陀如来。本殿の中はとても綺麗にされていた。

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▲本殿の横にあるのが祖師堂。3人が祀られている。

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▲3人とは、法然親鸞と円澄(九条兼実)のこと。

こんな山の中にある月輪寺にも宝物殿があり、数体の仏像と、ゆかりある空也の像が保管されている。

六波羅蜜寺が所蔵している空也像はどちらかと言えば悲哀の表情だけど、月輪寺空也像はなぜか憤怒の相を浮かべてるのが特徴。

僕が知ってる空也像とあきらかに異なる姿には興味津々なんだけど、残念ながら宝物殿は平日のみ公開なのだとか。

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▲宝物殿に収められた空也像。

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▲台風の影響でかなりダメージがあったみたい。心ばかりの支援をしてきた。

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▲ここから愛宕神社までつながっている。所要時間は約60分とのこと。

境内で少し休暇しコンビニで買ったパンを食べる。

滝を出る時、ちょっと急いで荷造りしたからパンがぐちゃぐちゃだ。でも美味しい。

一応、目的は果たしたのでこのまま戻ろうかとも思ったけど、先が続いているのでもう少し進むことに。

そう、京都に住んでいながら、愛宕神社へ行くのは初めてだったりする。

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▲尾根を進む感じかと思いきや、ここからも結構登る。しんどい。

神社までの道中、結構な人とすれ違った。思っていたよりメジャーなルートなのかも。

そして思っていたより険しいルートなのかも。

白状すると京都の西山は、東山や北山に比べてイージーだと思い込んでいた。

そんなわけはない、愛宕山は924m、比叡山より高いのだ。

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▲ゴツゴツした岩が出てきたらもう少し。

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▲さらにいい眺め!桂川が見える。

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▲看板発見。到着したっぽい。

聞いたところ、愛宕山の山頂と愛宕神社はちょっと違うところにあるとのこと。

オレは登山者じゃねぇ、参拝者だ…!という訳の分からない言い訳をして、山頂は踏まず、とりあえず神社を目指す。

 

愛宕神社

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▲階段上に見えるのが愛宕神社の御本殿。

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▲こんなところに犬が!

本殿前につくと、犬の顔をプリントしたリュックを背負う柴犬に遭遇。

麓まで下りた時に飼い主らしき人と話をしてわかったんだけど、この犬の名前はクゥちゃん。

4月から登り始めて、実に28回も参拝しているらしい。

軽くスキンシップをとるも、あまりテンション高い犬じゃない。

いろんな人に構われ過ぎてちょっとうんざりしてるのかも。

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▲思いの外、質素簡素な感じ。

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▲ただ、良く見ると意匠がすごい。

それはさておき、愛宕神社

全国に約1000社あると言われる愛宕神社の総本社がここ、愛宕山に鎮座している。

京都では比叡山に並び信仰を集める霊験あらたかな山として知られていて、いろんな噂を耳にする。

登山者がツチノコを見たとか見ないとか…。そういう俗っぽい話もあるけど、歴史的にも逸話が多い。

京都の怨霊野郎、崇徳院が時の天皇を呪い殺すため愛宕神社で呪詛を行わせたとか、明智光秀本能寺の変の直前にやって来て、信長を攻めるかどうか占ったとか。

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▲奥にも社があるみたい。

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▲木の感じが逆に厳かな雰囲気を感じさせる。

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▲こっちが若宮社。

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▲さらにその先には奥宮社。

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▲神社やお寺が最近のコンテンツを使うのって、いいと思う。

愛宕神社修験道の祖である役小角(滝の横にいた人)と、同じく修験道の僧、泰澄によって創建されたと言われている。

その後、平安京をプロデュースした和気清麻呂らが盛り上げて愛宕山に白雲寺を建立し、神仏習合ということで山岳修行霊場として有名になった。

修験者によって広められた愛宕信仰は全国に広まって、先に述べた通り数多くの神社が建てられたというわけ。

ちなみに戦国武将、直江兼続の兜に「愛」の文字があるのも愛宕信仰という説もある。

その後、明治の神仏分離令で白雲寺は廃絶してしまったけど、愛宕神社として今に至る、という感じ。

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▲嵐山ほどじゃないけど、外国人観光客も多かった。

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▲帰りは表参道を下るルートで清滝まで戻ることに。振り返るとなかなかの階段。

愛宕神社は火伏せ、鎮火の神様ということもあり、三歳までの子どもがお参りすると、一生火難を逃れると言われている。

最近だとSNSが炎上した時にお参りすればご利益あるんじゃないかしらん。

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▲参道は結構人が多い。ご老体の姿もちらほら。

「稲荷詣に愛宕詣」という言葉がある。稲荷とは京都の南にある伏見稲荷大社のことだ。

つまり、雲がお稲荷さん(南)に流れると晴れて、愛宕さん(西)に流れると天気がくずれる、という例えなんだそう。

お天気までもが神社にお参りする、という発想は京都らしい。

事実、僕が参道を下る途中にも、3歳くらいの女の子から80オーバーの老夫婦まで、様々な人とすれ違ったわけだから、老若男女も犬もなんでもお参りするのだ。

そういっている間に、最初の橋を渡った時に見かけた愛宕神社二之鳥居まで戻ってきた。

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▲ゴールが見えてきた。誰か待ってくれてる!…僕のことじゃないけど。

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▲二之鳥居に到着。

 観光地からスタートし、修行の滝、中腹の寺、愛宕詣を経て、JR嵯峨嵐山駅に戻る約17キロの充実したジョグトリップだった。楽しかった。

帰宅後、たまらなく身体がだるくなり、倒れ込むように2時間ほど寝てしまったけど、これは滝行のダメージか。

何はともあれ、普段、京都の東山をホームにしている僕にとっては新鮮なコースだった。

次回は是非、山頂まで行ってみたい。

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