【読クソ完走文】ハルはめぐりて / 森泉 岳土
海外旅行に行ったことがある人の方が偉い、とは全く思わない。
けれど、知ってる人がいない、言葉も通じない、右も左もわからない…そんな状況で独りで過ごすあの不安と緊張、それから高揚感は何ものにも代え難いもの。
この経験はやはり国内では味わえない感覚だ。
昨年、ベトナムへ行った際に独りでローカルバスに乗り、ちょっとした遠出をしたことがある。
やってきたバスに乗り込んで行き先を伝えたら、どうやら逆方向のバスだったらしく、運転手さんにむちゃくちゃ怒鳴られたところからスタートした。
隣に座ってきたおばちゃんはベトナム定番の笠(ノンラー)をかぶっていたのだけど、バスが揺れる度に笠のフチが僕を小突いてくる。
バス停の名前がわからないから時折Googleマップを確認しつつ、最短コースを外れたら「間違ったバスじゃないのか?」とヒヤヒヤしっぱなし。
結果、目的地に着いたものの閉園時間5分前で施設には入れず、他にやることもないのでそのまま引き返すことに。
帰りは帰りで、バスのタイヤがパンクしたのか車庫に戻って修理を始めたので、何が起こって何をしてるのかわからないまま車内で待つ。
やっと復帰できたかと思ったら、修理時間で遅れたダイヤを取り戻すためか、大渋滞する夕方の国道をクレイジーバスと化して爆走しだした。
急発進、急停車するもんだからお客さんも2、3人コケていたし、バイクにも接触しそうになったし、それはもう危険極まりないものだった。
▲チケットはバス車内で購入する。6000ドン、約30円。
とまあ、こういう体験はやはり文化の違う外国ならでは。
ドキドキするか、ビクビクするか、ワクワクするのか、それは人それぞれだけど、人生の経験として貯めておいて損のない経験だと思う。
さて、本書の話。中学生の女の子ハルが海外を旅する姿を描いた漫画作品。
ベトナム、台湾、モンゴル、日本を舞台に、人との交流や心情の変化を淡々としたタッチで表現した静かなマンガだ。
ちょっと不思議な出来事を交えながら少しずつ見聞を広げていくハルを見ていると、自分が海外で経験した情景を思い出す。
「かもめ食堂」で、もたいまさこ扮する中年女性もかなり不思議な体験をしているが、外国にいけばそういうモンなのかもしれない。
物語の後半、ハルと意気投合してしばらく一緒に過ごす「きれいな人」が登場する。
その人が別れ際、おもむろにハルの手の甲に名前と連絡先を書くのだけれど、それがまたかっこいい。やってみたい。
ちなみに僕の手の甲は毛で覆われているのでペン先を受け付けない。
筆者があとがきにこんなことを記している。
遠い異国の地に立ち、その土地の生活者たちに触れ、彼らの息づかいを感じることで、視界が開け、いままで自分が立っていた地面がどういった場所で、そしてそれが決して永久不滅のものではないのだということに気づかせてくれるのだ。そういった「ゆさぶり」こそ、僕をふくめ多くの旅行者が旅に求めているものなのではないか。
これには強く同意したい。僕が延々と書いた経験談もこういうことを言いたかったのだよ、諸君。
また、この「ゆさぶり」と良い本を読むことは似ていると筆者は言う。
なかなか旅に出れない今の生活。せめて良い本と出会ってゆさぶられたい。