右足の幅がFでした。

サブ6ランナーかく語りき

【読クソ完走文】極夜行/角幡 唯介

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 およそ読書という行為は、経験したことのない出来事を想像して嬉々としたり悶々としたり感涙したり、いわば作者が作り出した世界を追体験することだと思う。

しかしながら、この「極夜行」に関してはどれだけ想像してもその上をいくだろう壮絶な体験が記されていた。

紀行文としては珍しく写真の挿入が一切ない本書。唯一、表紙を開いた扉に紫色に染まる雪の大地が写し出されているだけだ。

極夜といっても写真のように少しくらいは明るいのだろう、そう思っていた。堺正章孫悟空を演じた「西遊記」に夜の町というのが出てきたが、そんな感じかと思って読んでいた。

しかし、本書を途中まで読んだあたりで著書・角幡氏のブログを見たのだが、極夜はそんな僕の安易な想像をいとも簡単に超えてきたのだ。

その時見た動画がこちら

月明かりがあるとはいえ、本当の極夜は全くの闇だ。暗闇は想像できても、その中を冒険するなど全く理解を越えている。

山椒魚」を読んだ時もかなりの閉塞感を感じたけど、本書にも同じような感情が湧いてきた。しかも氷点下30度、雪と氷の世界である。もう、エグい。

 

角幡氏は「脱システム」を掲げ、現代社会で生きる我々がその社会のシステムから脱却することをひとつの目的としている。

管理社会を飛び出して自由を享受する!といえば聞こえは良いが、それは同時に生命の安全性をも放棄することに他ならない。

そんな極限状態で夜の闇を旅する極夜行。フィクションが作り出した作品では得られない、ノンフィクションならではの臨場感が味わえる。

本編では著者が妄想する事柄が細かく、かつ丁寧に記されている。まわりは変わり映えしない雪と夜の世界。妄想する時間は十分にあるのだろう。

その中でも星を擬人化した妄想が秀逸で、おぉなるほど!と納得させられる。よくよく読むとアホらしい想像なのだけど、ここは著者の文筆の勝利だろう。率直に面白い。

自身を「病的なほど楽観的」と表現するように、角幡氏の文章はユーモアがあって愉快だ。死が隣り合わせになってもなお、こんな文章が書けるのは本当にうらやましい。

 

著者はたった独りでこの極夜を冒険した。それは常に生死を賭けた判断が要求される究極の選択だったと思う。

この、自分で判断し行動するということ、これは責任をすべて自分が負うということだ。

日々の仕事でもそうだけど、「自分で決めて動く」っていうのはとても大切なことだと思う。その行為が人を成長させる要素のひとつだと僕は考える。

「風景が美しく見えるのは、私が単なる観光客としてこの場にいるからではなく、生きようとする一人の人間としてそこにいるからだ」

そう角幡氏は言う。「生きる」という決断、覚悟を自ら行うことで世界の見え方が変わってくるのは、システム内に生きる我々も同様だと思う。

雪で身体が濡れたまま寒さをしのぎ暗闇の中を突き進む、そんな度胸は僕にないのだけれど、「自分の行動に責任を持って結果を受け入れる」という勇気を本書は与えてくれた。

 

最後に、角幡氏と共に行動した犬、ウヤミリック。犬派の僕としては彼がどうなってしまうのか、これまたドキドキの連続だった。

氏のブログに写真がいくつか掲載されている。ウヤミリック、ちょーかわいい。