右足の幅がFでした。

サブ6ランナーかく語りき

【読クソ完走文】キッチハイク! 突撃!世界の晩ごはん/山本 雅也

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キッチンのヒッチハイクと称し、世界の人々のお宅へお邪魔してご飯を頂いてしまおうという「キッチハイク」。想像するだけで心躍る企画だ。

著者はFacebookや友人のツテをたどり、ご飯をごちそうしてくれる人を探して現地へ向かう。そこで待っているのは等身大の家庭料理である。

「食卓を囲む」というのは万国共通、いや人の営みとしてなくてはならないものだ。子供の頃、友達の家で「ご飯食べていき~」なんて言われるとテンションがあがったものだ。

それくらい他人の食卓には魅力があった。ご近所でも田舎のばーちゃんちでも、そこに特別な何かを感じていたのは間違いない。

それが異国の見知らぬ人と食事をするとなると、その特別感は計り知れない。僕には到底マネできないことだけれど、一緒になら是非とも突撃したいと思わされる。

 

食卓の価値

著者が訪れた国は本書に掲載されているだけで30ヵ国。アメリカやタイ、フランスなどの馴染みある国からブルネイグアテマラエストニアまで様々だ。

当然、食文化も様々だし、そこに住む人々も様々。そんな中へひとりアポを取って訪問する著者は、以前の【読クソ完走文】で紹介した丸山ゴンザレス氏やヨシダナギ氏にも劣らぬ行動力だ。

未知の料理と遭遇した詳細なレポートは一読に値するし、またそれを作る人、一緒に食べる人の背景を知ることもまた面白い。

旅先の食卓こそ、“世界遺産”なんじゃないか? そう山本氏は言う。今、ここにある生々しさに触れることが「価値あること」として本書には記されている。

「同じ釜の飯を食う」という言葉がある。外国にこの言葉があるかどうかわからないけど、文字通り「食卓を囲む」ことはお互いの距離を縮めることになる。

それは相手の文化を受け入れたことになるし、一時的であっても本当の異文化体験ができることになる。それこそ海外を旅する意味でもあると、僕は思う。

 

ハンガリーでのこと

僕が大学生の時、友人と二人で一週間ほどハンガリーへ行ったことがある。その友人の親戚がハンガリー語の先生ということもあり、現地でその方の知り合いを紹介してもらった。

ジュジャさんとチャバさんというご夫婦で、滞在中に一度、それこそキッチハイクよろしく晩ごはんに招いてもらったことがある。

情けないことにどんな料理が出てきてどんな味だったか全く覚えていないけど、料理ができる間、その家の子ども達とストⅡごっこをして遊んだことは覚えている。

いい歳した大学生が「ハドーケン!」とか言いながら暴れていたものだから、ジュジャさん(お母さん)にえらい怒られた。今では良い思い出だ。

デザートに食べるチェリーを裏の畑に捕りに行って、籠に入れつつ口にも入れつつ、途中から種飛ばし大会になったりして、とても楽しかった。

その家にはお婆さんがいたのだけど、「私はハンガリー語しかわからないから、今度来るときはハンガリー語を勉強してきてね」と優しくお願いされた。

その時は力強く「イゲン、イゲン!」(はい!の意味)と心からそう思って返事したけど、結局それ以降、ハンガリー語には触れていない。

 

食への姿勢

キッチハイカーを受け入れる側は見ず知らずの旅人を自分の家に招き入れてご馳走するのだから、それなりに腕に自信はあるのだろう。

本書に出てくる料理はほぼ各国の代表料理やソウルフードと呼ばれるものだ。自分たちの国を料理で表現する、それはなかなか重大な行為のように思う。

山本氏は「食への姿勢が丁寧な人は生活も美しく、豊かだ」と言っている。これはまさに僕自身そうありたいと望む姿で、木村衣有子さんのように食への丁寧さでもある。
食卓で交わされる会話からは、往々にして異国で生活する彼らの信念が垣間見える。生活のスタイル、人生のテーマ、海外の人はそのあたりが明確だと思う。

まず国家や政治に対する関心が強い。成人年齢引き下げや水道民営化が行われてもほとんど騒ぎにならない日本とは大違いだ。僕も含めて…。

少し話がズレてしまったけど、じゃあ僕は誰かを食事に招いたとして、その人を満足させることができるだろうか…。そんな疑問が湧き上がった。

 

仮想おもてなし

もし僕が海外のキッチハイカーを招待するとして、一体どんな料理を振る舞うことができるだろう。ちょっと真剣に考えてみた。

残念なことに誰かの舌をうならす料理は思いつかない。考えに考えた結果、我が家のおもてなしは「たこ焼き」になりそうだ。

そしてあとはSAKEを出して枝豆、焼きナス、鶏皮ポン酢。居酒屋メニューでごまかすしかないだろう。

と、こんなトーシローの心配事はさておき、山本氏はこのキッチハイク体験を社会に普及すべくWEBサービスを展開している。

食べるひと(HIKER)と料理するひと(COOK)をつなげる「KitchHike」というコミュニティサイトで、スマホのアプリでも見ることができる。

みんなで料理を楽しんで一緒に食べましょうという内容なのだが、興味ある人は一度利用してみてはいかがだろうか。

 

しかし本書を読んでいると料理をしながらお酒が飲みたくなる。出て来た料理を食べるのもいいけど、ボチボチ作りながらグラスを傾けるのも、また楽しかったりする今日、この頃。