【読クソ完走文】ミライの授業/瀧本 哲史
「ミライ」と聞いて我々世代が頭に思い浮かべるのは「機動戦士ガンダム」に登場するミライ・ヤシマだ。「ホワイトベースのお袋さん」とスレッガー・ロウ中尉に評されていたが、当時の年齢は18歳。あまりにあんまりである。
しかし「逆襲のシャア」では2児の母として登場し、文字通り"お袋さん"となった彼女はいくらか艶っぽく描かれており印象的だった。
と、のっけから訳の分からない話をしてしまったけど、本書はミライさんが行った授業の話ではない。少年少女に向けたフューチャーの話である。
本書は14歳の若者を対象に授業形式で進んでいく。しかしながら、大人が読んでも十分手応えのある内容だし、むしろ大人が読むべき内容というか、大人が読め!と無言の圧力を感じる読後感であった。
そう、つまり「本来、親のお前らが子供に教えるべきなのにそれができないから子供らのミライが真っ暗になるんだよっ!」というプレッシャーをティキューーンと感じるのだ。
著者の瀧澤氏は以前にも授業形式の著書を発表している。ご存知の方も多いと思うが、名著「僕は君たちに武器を配りたい」だ。
こちらは大学生や新社会人に向けた内容だけれど、本書同様、大人が読んでも納得の内容になっている。もっと若い時にこの本に出会いたかった。…まぁ、出会ったところで当時の僕が理解してたかどうかは甚だ疑問だが。
さて、本書のお話。本書は「未来をつくる法則」として、次の5つを掲げている。
- 正解を変える旅は、「違和感」からはじまる
- 冒険には「地図」が必要だ
- 一行の「ルール」が世界を変える
- すべての冒険には「影の主役」がいる
- ミライは「逆風」の向こうにある
この文言だけでは全くピンとこないが、実際に各法則を行った歴史上の人物を挙げ、彼らの具体的な成果を紹介しつつ、その有効性をすさまじい説得力とわかりやすい言葉で語りかけている。もはや瀧本マジックだ。
子供たちが一度は口にする「何で勉強しないといけないの?」という鉄板の質問。いろんな切り口での答えがあるけど、本書は見事なまでにひとつの解答を提示している。それがこちら。
「本気で未来をつくろうと思うなら、過去を知る必要があります。」
ここで言う「過去」とは数多の先人が切り開いてきた道であり、それ以上に重ねてきた失敗であり、さまざまな学問における蓄積された知恵のことである。
「未来をつくる」とは、これからの人類の発展、進化のことであり、ミニマムで考えればこれからの自分の人生や生活のことを指す。
つまり、豊かで充実した幸せな人生を過ごすために勉強は必要なのだ!ということ。…うーん、文字にすると安っぽい感じだし即物的な印象を与えている気もするけど、決してそうじゃない。
日本は「本音と建前」の国である。「忖度」なんかも広義ではそうなるのかもしれない。別の見方をすると「理想と現実」とも言えるだろう。
日本の教育は「理想」だと思う。良い事は良い、悪い事は悪いと教える。もちろんこれらは大切なことだし、考え方の根本として必要なものだ。
だけど、問題なのは学校で「現実」をあまり教えていないことだと思う。確かに「現実」は子供にとって刺激が強すぎるし、屈折した考えを持つことになるかもしれない。
だけど、「現実」は現実。社会は「現実」で回っている。以前のブログでも少し触れたが、世の中矛盾だらけだし、理不尽で不条理だけど、それが「現実」なのだ。
「理想」だけで育ってしまった学生は、ある日を境に社会という「現実」に放り込まれる。そんなもんだから「若いもんは」だの「使えない」だの「坊やだから」だの言われて苛まれることになってしまう。
瀧本氏はおそらくそういった乖離状況に大きな危機感を持っているのだと思う。だからこそ「武器」を配りたかったのだと思うし、「法則」を作りたかったのだろう。
僕自身もこの考えには大いに賛成だ。学生時代にコンパへ行った際、見た目でビハインドを背負っている僕は相手をしゃべりで楽しませるしかない。結果、「IPARAPPA さんおもしろーい、でもあの人かっこいい〜」みたいになる訳だ。
この経験から「努力は成果に直結しない」こと、そして「人の見た目は大切」ってことを学習した。いや、そもそも「あの子はあの人を狙ってる」という水面下の動きがあって開催されたコンパだったのかもしれない。
そうなると、僕は全くの蚊帳の外で独りワイワイ騒いでいたことになる。悲しいけどコレ、現実なのよね。
「根回しや外堀を埋める重要性」や「可愛ければ得をすること」、「言動ひとつで回りを敵にも味方にもできること」などなど、経験ベースで得られる「現実」は多い。そう言ったことは積極的に教えていくべきじゃないだろうか。
「日本で自殺者が多いのはなぜか」「性教育をまともにしないのはなぜか」「身分的な差別がなくならないのはなぜか」「年金や保険制度はどうなるのか」…新成人が18歳になることを踏まえ、学校では是非そういうことにも切り込んでもらいたい。
社会で何かを成し遂げるには社会の仕組みを知ることが必要だ。瀧本氏は「その仕組みを知っておこうね」と少年少女に丁寧に語り掛けている。
しかし、あえてその社会の仕組みを教えようとしない、国なのか大人なのかわからないけど、「何か」は確実に存在する。著者は本書を通じ、その何かに対して猛烈に批判をしているのではないだろうか。やらせはせん!やらせはせんぞ!と。