みなさん、パンは好きですか。日本人はけっこうパン好きが多いとか。中でも僕の住む京都は日本一パンの消費量が多いらしい。詳しい理由は知らないけれど、そんな僕も例にもれずパン好きだ。
とはいえ、わざわざ遠くまで買いに行くとか、買ったパンを紹介するとか、それほど熱狂的なわけではない。目の前にパン屋さんがあるとフラリと入って買って食べてみたくなる。その程度だ。
そんな僕にも以前から気になっていたパン屋があった。それが東京、浅草にある「パンのペリカン」。食パンとロールパン、たった2種類しか販売していない。にもかかわらず、毎日予約がいっぱいで、お店は開店前から行列、昼前にはもう売り切れてしまう人気店だ。そんなん、どんなんか食べてみたいやん。
ペリカンに並んで世間話
というわけで、先日出張でたまたまお店の近くのホテルに泊まったので、朝一番から意気揚々と買いに行ってみた。
▲パンのペリカン。早朝でまだ店は開いてないけども、奥の方では職人さんがパンを作ってる。
店に着いたのは7:45くらい。すでに10人くらい並んでいる。ちょうど僕と同時におばあちゃんが列に並ぶところだったので、ここは紳士的に順番をお譲りする。そんなご縁あってか、待ち時間はこのおばあちゃんとおしゃべりしながら待つことになった。
おばあちゃんは近所の人でちょくちょく買いにくる常連さんらしい。「昔はこんなことなかったのに」と、列を見て少しだけ悪態つく。「へぇー、おかあさん、昔から浅草ですか?」「そうそう、そこですねん」と指をさして教えてくれる。
話は太平洋戦争にまでさかのぼり、福島へ疎開していたこと、戻って来た浅草は空襲で何もなかったこと、そこからどんどん発展していったこと、そして僕が泊まってるホテルは外資が買い取ったビルだということまで教えてくれた。
かと思うと北朝鮮問題の話になり、やはり平和が一番だと、戦争経験者の方から説得力のある言葉が出たかと思ったら、新潟女児殺害事件の話題に移り、国が赤線をなくすからこういう事件が起こるんだという持論を展開したり、それはそれはあっという間の15分だった。
▲山型食パン、ゲットだぜ!
ペリカンのパンを食べてみた
パンのペリカンでは、毎日ロールパンが4000個、食パンが400本売れるらしい。これがいかほどのものかピンとは来ないけど、ロールパンに限っていうと日本で一番売り上げている。浅草にある小さなパン屋さんがである。
その歴史や仕事の哲学が本になったり映画になったり話題にはなっているが、本書「パンのペリカンのはなし」を読む限り、ペリカンの方針は実にシンプルだ。丁寧に作る。効率よりも丁寧さを重視する姿勢は古き良き職人そのものだ。
そしてそれは作られるパンにも表れている。正直な感想を言えば、衝撃的に美味い!という訳ではない。ふーむ、こんな感じか…という印象だが、そう思いつつも結局ちぎりちぎりパクパク食べてしまっている。「これは…涙?」的に知らぬ間に感動していたのかもしれない。
▲ジャーン!むちゃ美味そう!ペリカンのロゴは東京藝術大学の学生さんに描いてもらったそうな。
▲見たらわかる。もちもちやん。
ペリカンの食パンはずっしり系だ。しっかり詰まったパンはもちもちで食べ応えがある。だけど、素朴で飽きが来ないというのは一口食べるだけで感じられた。この文章を書いているのはパンを食べてからしばらく経っているけど、もういよいよまた食べたい。
ペリカンの哲学
ペリカンのパンは限られた場所でしか食べることができない。ここまで有名になってもコンセプトは「町のパン屋さん」であること。常連さんを大切にする考えはやはり丁寧さが根底にある。
デパートでの出店の話もあったそうだが、それも断ったらしい。当然、ペリカンのパンを使いたいという飲食店も多いが、それも断っていて、今ペリカンのパンが食べられるのは昔から付き合いがある喫茶店などだけだ。
注文が増えると作る量も増える。そうなると丁寧さが損なわれ、結果、ペリカンらしさが失われるからだそうだ。それは創業75年の歴史の中、調子が良い時も悪い時もお店が貫いてきたポリシーで、それを守ることでペリカンのパンたらしめているのだろう。
「利益を求めるだけが仕事ではない」「単純に人に喜んでもらうというのも仕事の大切な要素」と4代目店主は言う。それがペリカンの考え方と言い切りる経営者はすばらしいと思う。
▲パンのペリカンから南に少し行ったところにある「ペリカンカフェ」。ここでもトーストしたペリカンのパンが食べられる。
だから遠く離れた関西の地でペリカンのパンを食べることは叶わないのだけれど、それはそれで納得の理由だし、また浅草界隈に行った時はフラリと寄ってパンを買いたい。次はロールパンも食べたいし、またあのおばあちゃんとも話がしたい。
番外編
ペリカンの北西に「ボワ・ブローニュ」というパン屋がある。夜の8時頃、たまたま前を通ったのだけど、ついフラリと引き寄せられるように入店した。店の中には難しそうな顔をした店のおばちゃんが一人。
夜ということで全品100円に値下げ。さっそくトレイとトングを持ってパンを選ぶわけだけど、結構な種類があって迷いトング。
するとおばちゃんがスッーと寄ってきて黙ってあるパンを指さした。全然無言なので「あ、コレがオススメですか?」と聞いてみたら「別にオススメってわけじゃないけど…」とつれない返事。
と思っていたら「お客さんは美味しいいうて買っていくけど…」って付け加える。へぇーじゃあコレ!と言ってトレイに乗せると、意外にもおばちゃんがいろいろすすめてくる。このアンパンは通常の3倍のアンコを使ってるとか。いや、シャア専用か!
結局、5つも買ってしまった。愛想はないけど話好きのおばちゃんがいるこのパン屋もなかなかオススメです。後から知ったけど、ここのぶどうぱんはかなり有名らしい。
▲オシャンティーな今風パン屋とは一線を画す昭和感あふれるパン屋さん。