右足の幅がFでした。

サブ6ランナーかく語りき

【読クソ完走文】ヨシダ、裸でアフリカをゆく/ヨシダナギ

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先日、ヨシダナギさんの写真展、「Tribe Walk」に行ってきた。願わくばご本人にお会いしたかったけど、それほど都合よくタイミングが合うはずもなく。しかしながら僕が訪れたのは平日の夕方、遅めの時間だったこともあって、作品をゆっくり堪能することができた。

 

ヨシダナギ氏はアフリカを中心とした少数民族の写真を撮る写真家だ。『クレイジージャーニー』にも多数回出演し、佐藤健寿氏と同様にとても有名な写真家のひとりと言える。僕も同番組で初めてヨシダ氏のことを知ったわけで、ややミーハーな思いがあるのは認めよう。

 

しかし、そういう話題性だけではない。ヨシダ氏の写真は彩度が高く鮮やかな上、コントラストがバキっとキマっていて個人的に好みの色合いだ。計算され尽くした構図もかっこいいし、少数民族という生き生きとした姿と色彩の非現実的さが混在する、いわばリアルファンタジー。感動というか感激する、そんな作品なのだ。

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▲写真展は撮影OKとのこと。

そんなヨシダ氏の5年間の軌跡をまとめたのが本書。当時のブログに加筆修正した内容である。被写体となる民族と同じ格好をすることで有名なヨシダ氏だが、そのルーツとも言える経験であったり、アフリカの地で四苦八苦した体験であったり、最初から最後まで驚きを交えつつ面白おかしく読みきってしまった。

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その中でも意外に思ったのはアジア人に対する差別のこと。街を歩いている途中、突然砂をかけられるなんて僕にしてみたら迫害レベルだと思うけど、何かの間違いじゃないかしら、と嫌がらせだと気付くまで何度も砂をかけられ続けたヨシダ氏はかなりおおらかな人だと思う。他にもレストランで頼んだ料理に虫を入れられたり、入国審査で後回しにされたり、おそらく本書に掲載していないだけで、もっと差別的な扱いを受けてきたと思う。

 

さらに意外だったのは、アフリカ内でも肌の濃さで、より黒い肌の人が差別される傾向があるらしいということ。「黒人差別」というと悪名高い「アパルトヘイト」や「奴隷貿易」など、社会や歴史でも勉強している。だけど、同じアフリカ内、同じ国の中でもそういった差別があるというのは、やはりその国へ行ってみないとわからないことだ。

 f:id:iparappa:20180215234334j:image▲会場では映像に映し出される民族とツーショットで写真を撮ることができる。

 

時を同じくして、文化人類学者の鈴木裕之氏が書いた『「差別」とは何か?アフリカ人と結婚した日本人の私がいま考えること』という記事を読んだ。国、人種、民族の違いによって人の人への扱いが変わる。それだけでなく、暴言や暴力に至るケースもあるのだ。これは本当に悲しい出来事なのだけど、古来、人間の営みには必ずと言っていいほど何らかの差別が存在していた。どうやら人は程度の差はあれ、比較や区別をしなければ生きていけないのかもしれない。

偏見や思い込みも差別のひとつだ。アフリカといえば貧困や発展途上などのイメージが先行し、我々日本人の方が文明的に高度な生活をしていると思いがちである。はずかしながら正直僕もそういう印象を持っていたのは否めない。だけど、文化の差はあれ、人間が生きるということに関して高いも低いもないのだと思う。 さだまさしが歌う「風に立つライオン」の歌詞に、僕たちの国が「何か大切な処で道を間違えたようですね」とある。間違えたかどうかわからないけど、我々日本人の生き方には、往々にして何か大切なものが抜け落ちてしまっているような気がするのである。

差別をなくすというのは本当に難しい。政治や経済の利権と複雑に絡み合ってる状況もあるだろうし、長い歴史の中でそれが当然になっていることもあると思う。だけど自分たちの手が届く範囲だけでも「其れ恕か」の心構えを持てるようになれたらえぇんちゃうやろか。

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これまで僕が記憶している少数民族の写真は、いかにも部族然としており、良くも悪くも文明とは切り離された人々といった印象を受けるものが多かった。しかしヨシダ氏が写し出す民族は本当に色鮮やかで崇高な存在に思える。誤解を恐れず言うとハイ・ヒューマンといった印象だ。そこには彼らに対する差別的意識はなく、憧れや敬意の方が強く表れる。かつてヨシダ氏が「自分もマサイ族になる!」と信じて疑わなかったように、この写真を見た人が自分もこうなりたいと思った時、彼女の作品は完璧になるのではないだろうか。

それにしても本当に素晴らしい写真だと思う。

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